この国では犬が

本と芝居とソフトウェア

観劇 2 月(ハムレット、マーキュリー・ファー ほか)

はじめに

1 月末からやたらめったら芝居を見ているので、記録をつけるようにしてみます。

これで読書、短歌と並んで月次コンテンツが 3 つになった。

短歌は題詠企画も月次だから、4 つともいえる。
ちょっとバランスが悪くなってきたので、ソフトウェア開発でもなんかできないかな……とも思いつつ、とりあえずは進めて参ります。

なおタイトルは「観劇」としていますが、ダンスをはじめとした、演劇以外の舞台芸術もたまに見るので、ここに含めていこうと思います。

2 月のトップ 2

ハムレット

シェイクスピア&初ハムレット

蜷川幸雄という人が演出する舞台は昨年までに 2 回見たことがあって、特に 2 回めのとき(『皆既食 ~Total Eclipse~』)がとてもよかったことや、僕が色々と芝居を見るきっかけになった友人がこのハムレットを推していたこともあって、ぜひともということで見切れ席を確保して観に行った、のが 2 月 4 日の水曜日。

そのときは、400 年前の西洋人が書いた戯曲を、初シェイクスピア&初ハムレットの人間にこうまでちゃんと楽しめるように、響くようにやれるということはすごいことなのだろう、とは思いつつ、きちんと全部は受け止めきれなかった、という感覚も残ったのだった。

そして、それなら読むか、ということで、読んだら、まんまと。

2 回めを(当日券に並んで)観に行ってしまったのが、2 月 14 日の土曜日。
この 2 回めが、1 回めにも増して、とてもよかった。

藤原竜也ハムレットはもちろんのこと、1 回めのときにはちょっと空気が馴染まない風に見えていた満島ひかりのオフィーリアと満島真之介のレアティーズの兄妹が、すばらしかった。

序盤、希望に燃えてフランスへ行くレアティーズがオフィーリアに別れを告げる場面。一点の曇りもない明るい兄妹愛がそこにあって、のちの展開を知っているばっかりに、そのシーンで既に泣きそうになってしまったほどだった。

気が狂ったあとのオフィーリアは 1 回めのときもよかったのだけれど、2 回めもすごかった。 一見明るい様子で「明日は聖バレンタインの日」と歌うところでは、どうしてこの子が、という思いが極まって、ぼろぼろ泣いてしまった。

それからびっくりしたのが、ゴンザーゴ殺しのシーンの最後の、歌舞伎のだんまりにヒントを得たという、スローモーションの演出。これは、けっこう昔からやっている演出のようなのだけど(もちろん僕は初めて見た)、すごくよかった。
1 回めのときは度肝を抜かれて思わず息を止めてしまったほどだったし、2 回めもとても楽しめた。

だいたい、数百年前のデンマークのお話である「ハムレット」に歌舞伎の幕が出てきて、幕が落ちるとニッポンの雛壇がドンと出てきて、という演出は、こうして文字にしてみるとえらいぶっ飛んでいて荒唐無稽でさえあるのだけれど、端的に言って、そこに不自然さなどまったくなかったことを改めて認識するにつけ、何がどうしてそうなった、と混乱さえしてしまう。
たぶんものすごい演出家なのだ、蜷川幸雄というひとは。

他にも言いたいことがたくさんあるのだけれど、きりがないので、このへんにしておく。*1

あと一つだけ言えるとすれば、ハムレットは観ると言いたいことや聞いてみたいことがなんだかたくさんたくさん出てきてしまう、謎の多い、様々な相を持った戯曲だということ(そして、それをとても高いレベルで消化して提示した舞台だったということ)なのかな、と思っている。

マーキュリー・ファー

  • 作 : フィリップ・リドリー(訳 : 小宮山智津子)、演出 : 白井晃、出演 : 高橋一生瀬戸康史 ほか
  • 日時 : 2015/2/21(土)18:00~@シアタートラム

胸糞悪い芝居だった。

たぶんがんばって我慢したと思うけど、もしかしたら途中、「クソが」って言ってしまっていたかもしれない。
壁沿いに立って観ていたのだけれど、後頭部を壁にゴツッとぶつけてしまったことも覚えている。(それは、どうしても我慢できなかった。横で観ていたひと、ごめんなさい……)

もちろん、名演だったということ。
それから、胸糞悪かったのは途中のところで、ラストシーンでは悲しいのかなんなのかもわからんまま、わけわからんくらい泣いてしまった。

あーなんなんだったんだ!!

「泣ける話」と評されるようなものではたぶんないと思うんだけど、おそらくここ数年で一番泣いたというのも事実だ。(「悲しみよ、消えないでくれ」の 1 日めのときにもどっぷり泣いたんだけど、その比ではなかった)

そして、なぜあんなに泣いてしまったのか、今ではよく思い出せない……。
画の美しさが、とか、兄弟愛が、とか、どうしようもない運命が、とかなんなりと説明のしようはあるんだろうけど、どう説明しても、決定的に抜け落ちてしまうものがあるような気がしてしまう。

やっぱり、「悲しみよ、消えないでくれ」のときと同じように(おそらくそれ以上に)、「ほんとうに見える芝居、ほんとうに見える演出」が徹底されていたことが、とても大きな要素だったということは言えると思う。

そして、そのことにもやもやしてしまう。
ほんとうに見える芝居が、いい芝居なんだろうか。心を動かす芝居が、いい芝居なんだろうか。

ただ、もう一つだけ言えることは、この日のマーキュリー・ファーが僕の大事なものをごっそりとどっかに持って行ってしまって、結果として僕の、少なくとも生活、もしかしたら人生を、はっきりと変えたということ。

このへんにでっかい穴あいてっから、埋めなきゃ、ってなっている。
この芝居を見なければ、それを埋める作業は発生しなかった。でっかいから、一朝一夕にはいかないし。埋まるんかどうかも、よくわかんないし。

それがいいことかどうかはともかく、もし人生が変わってしまったとすれば、ものすごいことだ。
短い人生、「人生が変わる瞬間」ってそうそう多くはないですよね。
こんな簡単に変わっちゃっていいのかなあ。いや、変わったのは生活だけかもしれないし、そもそも簡単なんかじゃないんだろうけど。

それから、そういう他人の人生を変えてしまうような芝居を連日やっているあのひとたちの人生、というか、人間としての生活は大丈夫なんだろうか、ということを心配してしまう。

俳優って過酷な生き方だと思う。

なお

「悲しみよ、消えないでくれ」の 3 回め(最終日)が 2/1 で、あれを入れるとトップ 3 にしたいところなんですが、あれは 1 月枠ということで……。(個人的に一番よかったのは 1/30 の回だったし)

2 月に見た芝居

時系列順でまいります。

悲しみよ、消えないでくれ

OFF-CLASSICS

ハムレット(1 回め)

エッグ

わたしを、褒めて

ハムレット(2 回め)

狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~

マーキュリー・ファー

おわりに

といった次第です。

ずっとこのペースだと破産してしまうので、戦略を練らなくてはなりません……。

*1:そういえば肝心のハムレットについてなんも言ってないな……とも思いつつ。正直言ってハムレットのことはいまだに消化しきれていなくて、こう、と短くはっきり言えることはあんまりないのが現状。