この国では犬が

本と芝居とソフトウェア

12 月に読んだ本

12 月に読んだ本。

先月もやっぱり、数は少ないけれど充実した読書でした。

12 月のトップ 3

犬とハモニカ (新潮文庫)

犬とハモニカ (新潮文庫)

高校の頃によく読んだものだけど、何となく遠ざかっていた久々の江國香織

帰省途上の姫路駅構内の本屋でたまたま見かけて、犬、ということと、表紙がかわいいということだけで手に取った。旅は、本が増えて困る。

高校の頃には、江國香織の言葉の使い方が好きで読んでいたという記憶があるのだけど、この作品(表題作)はそれだけではなくて、物語の組み立てというか、構造で見せる力がきらりと光っていて、そういう作家だとは記憶していなかったから、びっくりしてしまった。

もちろんただ構造だけではなくて、(僕の記憶の中の)江國香織らしい言葉の使い方も健在で、その両者が支えあってとても心地よい(でもどこか苦い)読後感が得られた。

表題作以外も、いずれをとってもなかなかよかった。(でも、表題作がいちばんよかった)
全体として、たしかにわたしたちはこういう風に寂しい、と感じられるすぐれた短編集でした。

数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)

数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)

著者の結城浩というひとはたくさんの本を書いているひとで、何よりも「教えること」に対して徹底的に真摯なひとだと思う。

そのひとが文章の書き方を教える本、のシリーズ第二弾。
シリーズ第一弾の「基礎編」もそうだったけれど、文庫サイズの 200 ページ足らずの中に「伝わる文章」のエッセンスが

ギュッ

と凝縮されている、宝石みたいな印象。
文章で教えることに対して徹底的に真摯なひと、がまさにその文章の書き方を教える本なのだから、さもありなん。

タイトルにこそ「数学」と入っているけれど、実のところ「説明文章作法」といった方が正確なのではないかと思える、汎用的な文章の書き方(推敲の仕方)が丁寧に説明されている。

ある意味、タイトルにだけはコミュニケーションの失敗(読者と出会い損ねる)の可能性を残していて、こうやって本の説明をしていると、どうしてこのタイトルなのか、ちょっとだけ気になってしまう。
第一作はたしかに数学関連の文章と関係が深い(とはいえ、やはりそれだけではない)内容だったから、そのシリーズに乗せるとするとこのタイトルになってしまう、というのが理由の一つとしてはありそうだけれど。

ランボー詩集 (新潮文庫)

ランボー詩集 (新潮文庫)

去年のたしか 11 月に、蜷川幸雄演出の「皆既食~Total Eclipse~」という舞台を観た。
この舞台が非常によくて、観てから一週間が経ってもまだ余韻が濃く漂っていたほどだった。そして、そのストーリーというのがフランスの詩人、ランボーヴェルレーヌを中心としたものだった。

ヴェルレーヌというひとは、もちろんランボーの若さや美しさにもだろうけど、それと同じかそれ以上にランボーの才能に惚れているみたいに見えたので、どれどれそのランボーという人が書いた詩はどういうものだったのか、と思って手に取ったのがこの詩集。

実は、書店で手に取ってパラパラとめくったそのときにはまだ、(たぶん時代によるものであろう)大仰な言葉遣いやモチーフにウッっとなっていた。でも、いざ読み始めてみると、これがすごくよくて、びっくりしてしまった。(本エントリ二回目)

二篇目の出だし「夏の夕ぐれ青い頃、」を見たときからすっかり彼のファンです。

それから、これですよ。

もう一度探しだしたぞ。
何を? 永遠を。
それは、太陽と番った
海だ。
(『ランボー詩集』pp.112 「永遠」)

なんなんだ!

海か。
海かもしれない。

でもこの 4 行だけ見てもたぶん何のことかわからなくて、この詩は全体としても短いのだけど、はじめに一度、おわりにリフレインとしてもう一度、この連が出てきて、その単純な構成が、(単純だからこそ、かもしれない)ものすごく印象的なのです。

訳者の堀口大學の感性もけっこう反映されているようにも感じられた(結果として、とてもよいのだけど)ので、別の訳者によるものも読んでみたい、と思っています。

読書メーター

2014年12月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:2800ページ
ナイス数:28ナイス

反哲学入門 (新潮文庫)反哲学入門 (新潮文庫)感想
ニーチェ以降の反哲学」というキャッチーな切り口で哲学史を大づかみに説明する、たのしい本でした。インタビュー形式ということで論理の精密さにはやや欠ける気がしますが、その分大きな地図が描かれていて、参考になります。
読了日:12月6日 著者:木田元
カント『純粋理性批判』入門 (講談社選書メチエ)カント『純粋理性批判』入門 (講談社選書メチエ)感想
対象の認識が対象の現出に直結する「神の理性」を克服しようとしてしきれなかったカント、が生き生きと描かれていて、平明かつスリリングなよい入門書だったと思います。要点を繰り返し強調してくれるのも、読み物として親切に感じました。
読了日:12月9日 著者:黒崎政男
エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にするエッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする感想
ほんとうに大事なことだけをやるべき理由から、その見つけ方、やり方の様々まで丁寧に説明されていて、すっと腹に落ちました。これがよいということはよくわかったので、これから少しずつ、ゆくゆくは全面的に、実践していきたいと思います。
読了日:12月15日 著者:グレッグ・マキューン
数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)感想
この本の、推敲の方法を示す文章それ自体が、書かれている方法を綿密に適用して作り上げられています。読んでいてそのことがビシバシ伝わってくるので、説得力がハンパないです。
読了日:12月20日 著者:結城浩
寝ながら学べる構造主義 (文春新書)寝ながら学べる構造主義 (文春新書)感想
現代人は構造主義の虜囚であるということがわかりました。
読了日:12月20日 著者:内田樹
本を読む本 (講談社学術文庫)本を読む本 (講談社学術文庫)
読了日:12月23日 著者:J・モーティマー・アドラー,V・チャールズ・ドーレン
短歌ください (角川文庫)短歌ください (角川文庫)感想
シロートの短歌は、むやみやたらと眩しい傾向がある気がします。その眩しいものを、穂村さんが丁寧にすくい上げて紹介してくれるありがたい本です。この本で、穂村弘というひとの評がまたとてもいいのだ、ということに気づきました。
読了日:12月27日 著者:穂村弘
人はなぜ「美しい」がわかるのか (ちくま新書)人はなぜ「美しい」がわかるのか (ちくま新書)感想
美しいということについてよくよく考えては考えて、また考えてを繰り返した人、と話をしているようで、読んでいてとても楽しい時間を過ごすことができました。
読了日:12月28日 著者:橋本治
ランボー詩集 (新潮文庫)ランボー詩集 (新潮文庫)感想
よしんば世界をこんな風に見ることはできたとしても、よもやこんな風に言いあらわすことができたなんて、という驚きがありました。それから、これが19世紀に書かれたものであるならば、以降の多くの詩人や作家やそのほか表現をする人たちに大きな影響を与えたに違いない、ということも。
読了日:12月28日 著者:ランボー
孤独の価値 (幻冬舎新書)孤独の価値 (幻冬舎新書)感想
孤独は世間でよく言われているような悪いものではない、ということを力強く語る本です。じつにその通り。森博嗣には珍しく、なんとなく熱が感じられます。
読了日:12月29日 著者:森博嗣
デカルト入門 (ちくま新書)デカルト入門 (ちくま新書)感想
デカルトが行い、また考えたさまざまなことと、その意義を広く浅く知ることができました。特に、既存の学問や思考体系にとらわれず、自分で徹底的に考える、という姿勢に感心しました。ただ、入門書にしては文章がこなれていなくてちょっと読みづらかった。
読了日:12月30日 著者:小林道夫
犬とハモニカ (新潮文庫)犬とハモニカ (新潮文庫)感想
たしかにわたしたちはこういう風に寂しい、と感じられるすぐれた短編集です。何より表題作が秀逸で、この人こういう切れ味鋭い感じのもの書けたっけ、とびっくりしてしまいました。旅先で読むと、自身の寄る辺なさと作中の寄る辺なさとが呼応して、より味わい深くなるようにも思います。
読了日:12月30日 著者:江國香織

読書メーター

感想率が高い。

ぼちぼち哲学の真似も始めています。