読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

この国では犬が

本と芝居とソフトウェア

ソニックガーデン本(『「納品」をなくせばうまくいく』)は想像以上に熱い本だった

ソフトウェア

「納品のない受託開発」を掲げるソニックガーデンの創業社長である倉貫義人さんが書いた、この本を読んだ。

熱い

思っていた以上に熱い本だった!
SI の会社にいた頃に感じていたモヤモヤを正論に次ぐ正論でビシバシ叩き切ってくれる、痛快極まりない本。

そもそも、要件定義は本当に顧客にとって必要なことなのでしょうか。顧客が実現したいのは、そのソフトウェアを使ってビジネスで成果を上げることです。その目的は、コスト削減かもしれませんし、売上の向上、あるいは新たな価値の創造かもしれません。(pp.16)
また、人月の最大の問題は、どんなエンジニアが担当しても同じソフトウェアが完成する、という前提に立っていることです。もし、本当に優秀なエンジニアが担当することになって、3 人が 3 か月でできると見積もったものと、ダメなエンジニアを多く集めてきて 10 人で 10 か月かかると見積もったものとで、出来上がるソフトウェアが同じだとしたら、どちらがよいでしょうか。顧客にとっては間違いなく安上がりになる前者ですが、開発会社にとっては明らかに人月が多い、つまり売上が大きい後者なのです。(pp.26)

この本では、「納品のない受託開発」が、これらの問題を鮮やかに解消することについて説明されている。

銀の弾丸ではない

一方で、「納品のない受託開発」が銀の弾丸ではないことも 2 章 4 節にはっきりと述べられている。

「納品のない受託開発」では、様々な制約を設けることで、効率化を図っています。(pp.74)
すでにあるシステムをベースにして、そこから引き継いだかたちで「納品のない受託開発」をすることもできません。(pp.74)
大規模システムについてはどうかというと、多くの人数を投入するという意味での大規模なプロジェクトは、「納品のない受託開発」ではできません。(pp.75)

このあたりは実際にいくつものプロジェクトを手がけてきての現実、実感という部分もあるのだろうと思われる。この 2 章 4 節は、「納品のない受託開発」の仕組みへの信ぴょう性を高め、また変な誤解や誤った期待を正す重要な節だ。

支える技術

1 ~ 3 章はどちらかというと顧客視点での「納品のない受託開発」の紹介、それから 4 章は事例紹介ときて、ここまでは「ふむふむ、たしかに」といった感想だった。

ところが終盤、第 5 章からは一転して、「納品のない受託開発」の実装の話になる。これがエンジニア的にがぜん熱い!

ごくざっくりといくつかだけかいつまんで紹介すると、下記のような感じだ。

  • 「バグはゼロに」ではなく、すぐに直せるようにする
  • 落ちないサーバーよりすぐに復旧できるサーバー
  • 「あらかじめ仕込む」よりも「必要になるまで作らない」
  • 自己組織化されたチームを作る
チームのビジョンの下にそれぞれが自律的に行動し、お互いのスキルを補完し合いながら、結果としてチームが一体となって機能する(pp.169)
  • 優秀なエンジニアを採用し、育てる
採用の際に重視するのは、その人が「どんなエンジニアなのか」ということです。私たちの採用では、一人のエンジニアが採用面接を受けてから正式に入社するまでに、長くて半年は時間をかけています。(pp.187)
大事なのは、ベースとなる考え方と会社のカルチャーを身につけることです。そうしたことを採用したエンジニアに伝えていくために、メンターとともに定期的に自身の仕事を振り返り、働き方についてレビューを受ける機会を用意しています。(pp.193)

……ああ、それが(時と場合にもよるけど)大事だってこと、僕ぜんぶ知ってた。

では何が熱いか。

これらの「当たり前」のことを、(おそらく)一定以上のレベルで「マジでやっている」であろうことが熱いのだ。

もちろん、既にある会社のなかにも、こういうことをきちんとやっているところは存在していることだろう。
僕が今在籍しているパッケージソフト開発の会社でも、(そもそも業種が違うこともあって)書いてあること全部というわけではないが、結構やっている、やれていることも少なくない。*1

では何がこんなに自分を揺さぶるかというと、「人月」の世界にいて、おそらくずっと「こういうところ」に憧れを持って、足掻いていたであろうまさにその人たちが、ついにそれを自らの手で現実のものに変えていっている場面を目撃している、その感覚だろうか。

「ああ、これ全部きちんとやってれば、納品のない受託開発できるわ、できちゃうわ」と腹に落ちる感触が心地よかった。

まとめ

全体として、動機からビジョン、具体的な方法論まで、思いのほかバランスの取れているよくできたスキームだなという実感を得た。もちろん現実にはまだまだ課題や改善すべきところはたくさんあるのだろうけど、ひとまずは一定の成果を出した人たちの「これまでのまとめ」として、素直に賞賛の気持ちを持って読むことができた。

恥ずかしながら僕は経済のことがまだまだよくわかっていなくて、こういうビジネスがどれくらいの大きさの市場にまでなるかとか、いつまで続くかとかいったことを予測するのは難しいのだけれど、いちエンジニアの実感として、確かにこれは一定程度以上「うまくいく」!と感じさせる本だった。

拙筆にして本の熱さを十分紹介できていない気がする、というか、(当たり前なのだけど)内容のすべては紹介できていなくて、ここに書かなかったことの中にも熱いポイントたくさんあったので、興味を持った方はぜひ目を通してみることをおすすめする。

SIer 出身者としてもともと一定の興味は持っていたのだけど、ソニックガーデンさんとその周辺の動向がとても楽しみになった。これからますます注目していきたいと思う。

おまけ:ツイートまとめ

*1:もっとやりたい、もっとよくしたいと思うところもある。